●『FINER MOMENTS』その2
しい音楽をひとまずわかりやすい音楽と言うとして、それは幅広い人気を得やすく、大ヒットしやすい。そういうコマーシャルな方向をザッパは最初のマザーズの活動ではあえて貫いたところがある。



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それは先輩格のジャズ・ミュージシャンがフリー・ジャズという、演奏の次の瞬間の予測が不可能な音楽をよく演奏していたことを見倣っていたからとも言ってよい。そういう自分の立場と音楽を「ノー・コマーシャル・ポテンシャル」と名づけてもいたが、レコードの配給会社にすればせっかく売り出すアルバムがたくさん売れる方がよい。金儲け集団の会社は常に「コマーシャル・ポテンシャル」を求めている。それに反旗を翻すのであれば自分でレコードを売るしかないが、やがてザッパはそうする。ところが、ザッパ自身の中に心境の変化が訪れた。歴史に残るジャズの大家が最晩年にわずかな小遣い銭程度に不自由している姿を間近に見たからからでもある。先輩格の音楽家たちが命を削るようにして前衛的な音楽に身を投じたのは頭が下がることだが、生活に事欠くほどの収入となれば自分の好きな音楽活動がままならない。転向というほどではないが、何か違った方向があるのではないかとザッパは考えて最初のマザーズを解散した。メンバーが違えば演奏する音楽も違う。新しい可能性に賭けたということだ。「ノー・コマーシャル・ポテンシャル」と名づけられたアルバムは結局発売されなかったが、それは10枚組として企画したものに当初命名されたようだ。昨夜は探すのが面倒で資料を見ずに書いたが、先ほど埃を被った資料の中から「ZAPPALOG」を引っ張り出した。これは1983年6月18日に購入した書き込みがある。ネット時代になればザッパ関係の情報は簡単に入手出来るが、80年代前半はまだ少なく、こうした資料本に頼るほかなかった。この本を当時買ったファンは現在50代だろう。その後生まれた若いファンは内部を見たことがないかもしれない。それはいいとして、この資料本に幻となった10枚組LPについて書いてある。それによると、「THE HISTORY AND COLLECTED IMPROVISATIONS OF THE MOTHERS OF INVENTION」と題して当初は12枚組で出る予定であった。録音素材は63年から69年にわたる。発売に関してレコード会社は難を示し、12枚のうちから『いたち野郎』と『バーント・ウーニー・サンドウィッチ』の2枚が世に出て、残り10枚はまた9枚に減らされた。協議のうえでそれは3枚セットになり、「ノー・コマーシャル・ポテンシャル」と名づけられたが、それも発売を見なかった。最初の12枚のタイトルも記されている。その中に『いたち野郎』も『バーント・ウーニー…』もないので、発売に際してタイトルが変更された。また、その12枚に今回の『FINER MOMENTS』という題名も見当たらないので、本作が12枚セットに含まれていたものかどうかはわからない。
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 本作は71年や72年の録音を含むから、その可能性はないと言うべきかもしれないが、12枚組の中に含んでいたアルバムに新曲を加えて構成し直したものと考えると、「ノー・コマーシャル・ポテンシャル」の思いには相変わらずふさわしいだろう。実際本作は全体にフリー・ジャズのような前衛調が濃厚で、1973年からたちまち色濃くなるコマーシャル的な味わいとは一線を画している。そのことでかえって本作を評価するファンもいることだろう。今回2枚組となったのは、どういう理由からだろう。2枚とも後半に20分近いライヴ演奏を収める点でよく似ている。LPで言えばA面にいろんな傾向の数曲を配置し、B面は熱気溢れるソロを聴かせようということだ。今日はまずディスク1を説明するが、筆者が本作で真っ先に目を留めて聴いたのはLPのB面全体を占めているはずの「UNCLE RHEBUS」だ。これが74年のジョージ・デュークとの共作「UNCLE REMUS」とどう違うのかが気になった。ザッパが「UNCLE RHEBUS」と名づけたのであれば、その時すでに「UNCLE REMUS」を思っていたであろうか。「UNCLE REMUS」は黒人を主人公にした有名な本の題名だが、それを知りながら「UNCLE RHEBUS」と少し発音を変えたのか。曲を聴いて「UNCLE REMUS」のメロディとは関係がないことがわかり、また「KING KONG」の途中から最後までを切り取った演奏であることに多少失望した。確かに「KING KONG」そのものではなく、最後に『200 MOTELS』に使用するオーケストラ曲のメロディが奏でられるので、同じ曲でも少しずつ変化させ、違った題名で呼ばれてもしかるべき曲に仕上げているのはわかるが、曲の味わいは「KING KONG」や「UNCLE MEAT」と変わらない。それゆえ「UNCLE」を用いて「UNCLE RHEBUS」としたのかもしれない。ともかく、「KING KONG」や「UNCLE MEAT」の主旋律を使っておらず、最初と最後に違った主題を持って来ているので、「UNCLE RHEBUS」という新しい題名をつけることは騙しではない。ここにザッパの主題に対する重視の姿勢が見られるし、またたとえば「UNCLE MEAT」と「DOG BREATH」の主題がしばしばつなげられて「DOG MEAT」と題されたり、また「UNCLE MEAT」と「KING KONG」の主題が連続で演奏されるなどしたから、その延長上になお姿を変えて「UNCLE RHEBUS」が生まれたということだ。これは主題は短くても、それを奏でた後、メンバーのソロを交代させて長大な曲にするという方法論を、常により複雑で新鮮なものにするためには必要な措置であった。そこには他のメンバーとは違って即興演奏とは別に楽譜に主題を書く行為をザッパが絶えず行なっていたことを示す。ただし、「UNCLE RHEBUS」がその後、つまり69年8月以降同じような主題の配置とソロで演奏された形跡はなく、最初のマザーズの段階でザッパが楽曲を絶えず新素材の導入で活性化を意図していたことを示し、そのことがわかるだけでもディスク1は価値がある。
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 ディスク1で筆者が驚いたのは5「THE OLD CURIOSITY SHOPPE」だ。これは71年5月21日に収録されている。フロ・アンド・エディ時代の曲で、7分ほどだ。誰でも即座にわかるが、これは「BILLY THE MOUNTAIN」の後半に登場するスチュードベイカー・ホークのパートのソロだ。このソロが正式にアルバムに収録されたのは「PLAYGROUND PSYCHOTICS」で、また去年12月に発売された「CARNEGIE HALL」では13分に及ぶ長さのものが収められた。「PLAYGROUND…」ではソロの最後が不自然に切られているので、本来はもっと長かったはずだ。それはさておいて、「PLAYGROUND…」ではギター・ソロがほぼないと言ってよい。このソロは最初にキーボードないしアルト・サックスのソロがあって、後半をザッパのギターが担当する。その代表的な形の演奏が本作で収録された。そして本作でのギター・ソロはほとんど後年「SHUT UP‘N PLAY YER GUITAR」のを彷彿とさせる。これはもちろん「INCA ROADS」のソロであるから、71年にその響きにきわめて近いソロを奏でていたことは驚くに当たらないが、それでもザッパの仕事が連綿としてつながっていて、後年の大輪の花は研鑽の賜物であることを再認識させる。本作のジャケットはリノリウムの貼り絵というが、道理で床の模様にふさわしいパターンが目立つ。このリノリウムに引っかけてブックレットにゲイルは序文を書いている。なかなか訳しにくい文章で、しかもザッパ・ファンだけがわかる洒落を交えている今ではあまり用いられないのかどうか、。リノリウムは台所やトイレの床を張る材料で、わが家の改装していない古い場所にも用いられている。ゲイルは本作をそれを使った「WELCOME MAT」としている。本作が状態の悪い古い録音を用いていて、そのことを「リノリウムを床にリサイクルしている」とも書いているが、この「リノリウム」の次に「そして後にはビニール」と括弧内に添えている。この場合のビニールはLPのことを言っているだろう。それもあって本作はLPも作られたのではないか。ともかく、リノリウムを使ってジャケットをデザインしたビル・ミラーが今回はライナー・ノーツを書いているが、81年に若い学生で、当時『ベイビー・スネイクス』を映画館で見たというので、今50歳ほどであろう。『無精な芸術家によって名作が作られたことがない』というダリの言葉を最後に書いている。ザッパは仕事中毒で、すべてを創作に捧げた。名作や傑作の何たるかがわからない人は多い。「精進」という言葉はあまり好きではないが、猛烈に求めて夢にまで創作のことを考えないような作家から名作が生まれるはずがないのは事実だ。本作は名作ではないが、それへの道筋を多角的に伝える鍵となっている。
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by uuuzen | 2012-12-23 23:59 | ●新・嵐山だより(特別編) | Comments(0)


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