●『FINER MOMENTS』その1
のトレード・マークから発せられる吹き出しの中に「#94」と書いてある。この文字がいつもより大きくて目立つ。「#100」に近いことをゲイルは感じているのだろう。



今日アマゾンで予約していた2枚組CD『FINER MOMENTS』が届いた。今回はLPでも発売された。内容は同じで2枚組だろう。となればCDはLPのように1枚当たり40分程度の収録で、片面はその半分ということだ。実際CD2枚で82分40秒で、これは1枚に収めるのは無理だが、1枚的な量だ。なぜ82分40秒しか収めなかったかだが、「PRODUCED/COMPOSED/CONSTRUCTED」の3つをザッパが行なったことが記されていて、「CONSTRUCTED」はザッパがアルバムを構成したとの意味のはずで、ザッパが一度は発売しようと思って編集したアルバムであるからだろう。ザッパは録音曲をためる一方でスタジオでアルバム化のための作業を行なった。発売されなかったが、LPの収録時間に合わせた構成をたくさん試みたはずで、ゲイルとジョー・トラヴァースはそうしたテープを掘り起こしてCDあるいはLPで発売しようとしている。ザッパが新作アルバムのために試行錯誤し、結局は最もよいと思った構成でLPを発売したと考えるしかないが、案外そうとも言い切れないところがザッパにはつきまとう。せっかくLPとしてまとめたのに、レコードの配給会社がその一部を認めず、曲の部分、あるいはその全体がカットされて世に出たことがあるからだ。そういうアルバムがその後CD化される際にLP時代には予定しなかった曲が含まれて、アルバムとしての様相を一変する。つまり、発売されたLPが唯一完全なものとは言えない。凝り性のザッパは、新作LPを生むために、時に手を加え過ぎることもあったし、それがその一歩手前のものより優れているとは限らない。またザッパは新作LPを構成するいわば最終段階の仕事のみに最大の力を込めたのではなく、その前段階の各曲の完成、あるいはツアーでのレパトリーをどうするかなど、考えることが多かった。その多くの考えを積み重ねた合間に新作LPを編集したが、その際に脳裏に新曲の作曲やメンバーを集めての練習、次のツアーなどについても考える必要があって、次々と発売された新作アルバムのみがザッパのベストな仕事を代表するとは言えない事情があったと考えるべきだろう。そうであるからこそ、ゲイルやジョーはザッパが遺したテープのうち、良質なものを可能な限りアルバム化しようとしている。また、そうして発売されるアルバムが生前のザッパが発売したものより優れているかどうかはファンが考えればいいことであって、やはりザッパは最良の編集を発売したと思うもよし、涙を飲みながら、せっかく構成したいくつものテープを没にしたと考えるのもよい。
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 ザッパは70年代半ばにLP10枚組を発売するとインタヴューで語った。それは日の目を見なかったが、ザッパが語っただけにそのテープは完成していたと考えてよい。それらのうちから『いたち野郎』や『バーント・ウーニー・サンドウィッチ』が発売されたようだが、残りの8枚分はどうなったか。その答えのひとつが本作であると考えてよい。であるからこそ、今回はLPも作ったのであろう。となればまだ6枚分が残っている。今後それらが本作と同じように発売される可能性は大きい。10枚組LPは当時としては無茶な企画で、ザッパが語ったように価格もかなり下げる必要があった。そこまでして売ることはないとレコード会社が反対したのか、ザッパが新しいバンドを作って新しいツアーを続々と行なったので興味を失ったのか、ともかくいつの間にかその話は立ち消えになった。そしてCD時代になるとザッパはまた新たなことを考え始めた。それは盤をひっくり返してプレイするLPとは違い、切れ目のない演奏を最大LP2枚ほども1枚に収めることが出来る。この切れ目のない長時間収録を好むようになると、LP時代の構成が古臭く感じる。ザッパの場合はそうであったと考えてよい。新しいものを貪欲に取り入れることを好んだザッパだ。CD時代になってわざわざLPに固執するつもりはなかった。そしてかつて一度は発売を考えた10枚組LPはますます没にするしかないと思ったであろう。だが、その中にはそのまま捨ててしまうのが惜しい曲がたくさんある。そこでそれらを拾い集め、CD時代に『オン・ステージ』集の全6巻を構成した。本作はそのシリーズで発表された曲が混じる。ディスク1の「モーツァルト・ピアノ・ソナタ・B♭」だ。これは92年発売の『オン・ステージ』第5巻のディスク1に「モーツァルト・バレエ」という題名で発表された。とはいえ、今回は2分ほど長いフル・ヴァージョンだ。このことは、CD時代にザッパが冗漫さを嫌ってかつてLPに収めようとした曲を切り詰めたことを示す。これは言い代えれば、本作はどこか古い感じがするということだ。筆者のこの意見を、本作がたとえば後の『オン・ステージ』よりも価値が劣ると捉えてほしくない。本作が世に出たことで、後年のザッパが本作を含めて過去の演奏をどう思っていたかが見える。ついでながら、『オン・ステージ』第5巻のディスク1はかつて発売しなかった10枚組LPのダイジェスト版の趣がある。このことは、10枚組を没にすることを惜しく思っていたことであり、過去の未発表曲の総括を最晩年に追い立てられるようにして『オン・ステージ』集をまとめ、そのことは『UNDERSTANDING AMERICA』の「PORN WARS DELUXE」の編集にも表われている気がする。
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 さて、今日届いて通して1回聴いただけであるので、簡単な感想しか書けないが、全体にかなり地味な印象を受ける。それはヴォーカル曲がないからだ。そのことをザッパは知っていたろう。それで発売をためらったとも考えることが出来る。あるいは10枚組の2枚としてしか発売することはふさわしくないだろう。ザッパのインストゥルメンタル曲となれば、ヴォーカル曲の中間部のギター・ソロを含むソロが大半で、それは80年代になってギター・アルバムに発展するが、本作はギター・ソロばかりが目立つのではなく、初期マザーズのアンサンブルとしてのジャズ演奏が混じる。それは楽器による演奏ばかりではなく、メンバーの奇声を中心としたヴォーカル曲とは分類出来ないまでもそれもどきが混じる。これは『いたち野郎』に色濃い演奏で、当時のザッパが楽器以外に声を重視し、また自らの指示によってメンバーに奇声を発せさせていたことが音の間からわかる。そういた演奏を面白いと思うかどうかでザッパの曲を好きになるかどうか別れると言ってよいが、初期マザーズでザッパがそうした奇声をよく用いたのは、メンバーの特質を見定め、使えるものは何でも使おうという考えであったからと見てよい。賃金を支払ってステージに立たせるのであるから、まともにソロが演奏出来ないのであれば、何か観客を楽しませる行ないをして見せろということだ。そのため、ジョージ・デュークやジャン・リュック・ポンティといったジャズの名ソロイストが加わると、途端に奇声を上げさせるようなことはなくなる。ザッパは人の特質や才能を見抜く力がことのほか強かった。先に本作が地味と書いたが、これは本作の楽曲を演奏するマザーズが地味であったためではない。すでにザッパ・ファンは60年代末期から70年代最初のマザーズがどういう即興演奏をしたかをよく知っている。そのデ・ジャヴ感に照らすと本作は目新しさにはやはり欠ける。『いたち野郎』や『バーント…』はスタジオでライヴ録音に音を被せることで楽曲の音を豊かにしたが、本作は『オン・ステージ』集と同様、そうした作業を行なわず、録音した素のままの曲をつないでいる。その海賊盤っぽさが少々残念だが、ザッパは70年代前半においてすでに『オン・ステージ』集を夢見ていたとも言えるから、ザッパの心の動きがあれこれ想像出来る楽しみがある。「その3」まで連夜続けるつもりでいる。
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by uuuzen | 2012-12-22 23:59 | ●新・嵐山だより(特別編) | Comments(0)


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