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●『ミス・リプリー』
欺の中に美容整形が入るだろうか。先週見終わったこのドラマは、学歴詐称の若い女性が男ふたりを手玉に取り、上流階級に入ることを夢見てもう少しのところで望みがかなう時に、嘘がばれてしまう。



それで逮捕され、1年間刑務所に入った後、今度は正直に生きようとするところで終わる。全16話なので、何回目でどういう展開となるかがわかってしまう。一番面白いのは最初の数回だ。その頃に誰しも予想するように物語が進むので、その後は見ていてかなり白けながら、思いはほかのところに飛んで行く。完全な駄作と言っていいが、ヒロインのイ・ダヘと彼女を愛する大企業グループの御曹司を演じるパク・ユチョンの姿を見たい人にはそれなりに楽しいだろう。筆者が真っ先に思ったのは、イ・ダヘの顔が以前『エデンの東』で出ていた時とは微妙に違うことだ。一旦その思いでしげしげと彼女のアップの顔を見ると、特に口元が全体のバランスとして悪い。涙を多く流して泣く場面では、かなりのブスというか、整形前のどこにでもある顔がわかるような気がした。そう思って彼女の整形について検索すると、ほとんどドラマごとに顔をいじっている。どれが本当の顔か本人もわからないのではないか。それに表情に乏しく、このドラマでは3つほどしかなかった。一番多かったのは口をポカンと開ける顔だ。本人はその顔が美しいと意識しているのだろうが、過剰な演技というもので、あまりにも型にはまり過ぎて不自然だ。つまり、出来の悪い漫画だ。人間の表情はもっともっと多様であるのに、それがあまりにも薄っぺらい。それは整形で顔を作り上げたこととうまく釣り合っている。そう思って納得したが、深読みすればそんな彼女であるからこその起用で、彼女しかこのドラマのヒロインにはふさわしくなかったのではないか。韓国ドラマはその点、実に深くドラマを見る人の心理を探っている。嘘で塗り固めた人生を演じる、つまり悪女のイメージはイ・ダヘにまさにぴたりだ。それを知ってこのドラマに出演した彼女は、腰が据わった見事な女優と言える。ドラマごとに顔をいじるというのも、もともと『俳優は見てもらって何ぼ』をよく心得ていて、売り物になるものは何でも利用する思いをよく示している。実際このドラマで彼女が演じるチャン・ミリは憎らしいほどにうまく立ち回り、悪びれない。それほどの悪女が逮捕されて1年後に心を入れ替えるのは納得が行かないが、そこはちゃんと説明がある。その説明がまたあまりに安っぽいのでほとんど喜劇だ。彼女が母に捨てられて哀れな人生を歩み、その母がユチョン演じる御曹司の父の後妻であるとの設定で、そのことが最終回近くでわかる。つまりミリは母についに出会い、自分を哀れに思う必要がなくなったという理由づけだ。これほどのシンデレラ物語はない。養護施設で育った者を主役に据え、またその人物が本当は卑下するほどの身分ではないことを知る韓国ドラマは数多い。この安っぽい設定はそれだけで見る気力を失わせるが、いつも書くように、女や子どもは大昔からそのようなお伽噺が好きであり、その鉄則を繰り返しているに過ぎない。だが、あまりに陳腐な筋書きは不評を買うだけだ。このドラマで見るべきものは、デジタル時代になっての画面の鮮明さで、それに耐える映像の美しさを追求していることくらいだ。
 そこにはアナログ時代とは比較にならない撮影の並みならない苦労があるだろう。それはまず俳優の顔がアップになる。特に若い女性は肌のきめ細かさが求められる。ほとんどそれは脅迫観念となって、人形の肌のようなつるつるしたものを求める。男も同じだ。ユチョンは以前『トキメキ☆成均館スキャンダル』で見たが、今回は現代劇でしかも筆者のTVがデジタルの大きな画面に変わったこともあって、肌の状態がよくわかった。向かって左の頬だったか、彼には少しえぐれたような傷跡がある。男であるのでそれくらいどおってことはないが、御曹司には似合わない。ナイフで切られた後、縫い合わせたような傷に思えたからだ。男優ですらこれである。女優は自分の顔がどのように映っているか、病的なほど常に心配であろう。イ・ダヘはその点完璧と言ってよい。だが、それは現実にはあり得ない。あちこち整形し、またその微妙な失敗によって表情が乏しくなり、時としてとてもブスに見えてしまう。味がないのだ。完璧を求めて顔に手を加えるほどにそうなる。だが、そのようなどこか不自然な彼女の顔ゆえにこのドラマの脚本が書かれたのではないか。『ミス・リプリー』がチャン・ミリという配役の名前とは違うので、何のことかと思って調べると、アラン・ドロンの『太陽がいっぱい』から拝借していることを知った。この映画はドロン演じる貧しいチンピラのレプリーが金持ちの同年齢の男になり済まし、彼を殺したうえで何もかも奪うが、最後で殺人の痕跡がばれてしまう。その衝撃的な結末によって名作となったが、一方のこの韓国ドラマはミリの転落から1年後の姿を描く。それは完全な蛇足だ。前述のように、母が現われるという、悪人に徹し切れなかった幸福な展開としての説明はあるが、それも蛇足で、筆者は数回見たところで、御曹司の継母がチャン・ミリの母であることを悟った。これは誰でもそうだろう。ならば残り10回は見る価値がない。韓国経済の頂点にいるような人物と、その反対に養護施設で育った身寄りのない人物の出会いを描くこと自体、かなり無理がある。現実ではそんな両者は街中ですら出会わない。それを無理に出会わせ、しかも御曹司が一目惚れする設定を作れば、男がよほどの間抜けとしか思えないが、それも女が稀に見る美女であるとの理由だ。実際このドラマではセリフにもチャン・ミリは誰もが納得する美女として表現されていたが、果たしてそうかと思った。このことはだいたい韓国ドラマの金持ちの婦人が発する言葉だが、人を見れば直観で育ちがわかる。それに二三度会って話を交わし、食事でもすれば、お互いどういう暮らしをして来たかは一目瞭然だ。このドラマでもミリはそのようにして御曹司の継母から値踏みされる。そして自分の息子の嫁としてはふさわしい相手ではなく、素性を調べさせる。彼女の直観は鋭く、また正しい行為だ。ところが御曹司も含めて男がだらしない。現実的には男の方がさらに女の育ちや素性を一瞬で把握出来る。ましてや大企業の御曹司やホテルの支配人ともなればなおさらだ。それがこのドラマではそのふたり揃ってミリの手玉に取られる。少女漫画でも今時こういう嘘っぽい設定は稀ではないだろうか。
 ミリは養子に出され、養父の借金のために博多のいかがわしい場所で働いていたという設定で、最初の回は博多でのロケ場面がふんだんに使われる。彼女を雇っている平山という在日韓国人の男は、彼女がかつてどこかの屋敷の庭先で横笛を吹いていた場面に出会い、彼女に惚れる。そしていわばヒモとなって店で働かせるが、彼女は店を抜け出して韓国に渡航する。それを平山はどこまで追うが、追って何をするかと言えば、金をせびることだけが目的かと思いきや、ミリのことが忘れられず、ミリが御曹司の継母にいじめられるとミリをかばって継母に啖呵を切るといったこともする。そのため、完全な悪人ではなく、彼女の幸福を本当は願っているという味のある役だ。この人物設定はよい。平山はマグダラのマリアをかばうキリストのようなところがある。ミリがいかがわしい場所で働くことになったのはそれなりに理由があり、いかがわしい場所が悪とは言えないということだ。そんなミリが学歴詐称を働き、とんとん拍子に成功をつかんで行くのは、自分ではどうしようもなかった育ちがさせたという見方で、罪を憎んで人を憎まずの立場をこのドラマは取っている。キリスト教的と言えばよいか、そのことは最終回で御曹司とミリがお互いの姿に気づかずに街中の光り輝く格言を記した看板を見る場面でも提示される。その言葉の下にミカエルの何とかとあったと記憶するが、聖書から取られたものだろう。キリスト教はミリが育った養護施設がキリスト系で、尼僧が園長になっていることからも示される。韓国におけるキリスト教は日本からは理解しにくいが、このドラマの脚本家はクリスチャンではないか。そして『太陽がいっぱい』の救いのない結末を好まず、人を欺き通したミリが悔悟し、新たな出発をすることを描きたかったのだろう。それはキリスト教信者から見ればありがたい筋書きだろうが、ドラマを娯楽として見る者はすっかり白ける。悪は最後まで悪を貫徹し、もがき苦しみながら破滅する方がよい。韓国ドラマにそういうものがなかったのではない。だが、このドラマではミリの美貌がそこまでの悪に徹することを避けさせたということだろう。ところがその美貌は、このドラマを見る誰もが感じる整形丸出しであって、それは悔悟で決着すべきことではない。ミリが交通事故にでも遭って、顔がぐちゃぐちゃになる結末ならば、おそらくこのドラマは迫真的な作品として高い評価を受けたと思う。
 ミリよりも悪いのは彼女の継母だ。チェ・ヨンギルという女優が演じ、冷たい表情がうまい。最終回では涙々の顔ですっかりイメージが崩れるが、筆者はイ・ダヘより彼女の方がきれいだと思う。それはいいとして、子が親のために苦労するという筋書きもさんざん使い回しされている。子を捨てた女はいずれその子に出会って復讐されるという設定は、連作ドラマでは恰好の起伏をもたらすが、ほとんど最初のうちからそれが見え透いてしまうので、その恰好は格好が悪いということにもなる。このドラマはまさにそれで、俳優たちは結末に満足したであろうか。子を捨てた女が子に復讐されるのは風刺だが、それを言えばこのドラマではミリを捨てた母が大企業の社長の後妻に収まったことは、いかに美女とはいえ不自然だ。社長はミリの正体を見抜けない御曹司と同じで、大企業とはいえ、普通かそれ以下の頭しか持たないと言いたいかのようだ。このドラマを見る大多数の普通かそれ以下の貧しい人は、金持ちの醜さやぼんくらさを思って溜飲を下げる。「あの老いぼれた社長は、後妻に美女を据えたはいいが、子を捨てたとんでもない薄情な女であることを知らず、いい気味だ。そうであるから息子も安っぽい女に一目惚れして親を困らせる」 つまり、ドラマを見る人に金持ちの馬鹿さ加減を知らせるのにいい内容で、そう見ると実にうまく作られている。しかも整形美女のイ・ダヘを悪女に据えるのであるから、なおさらドラマを見る人はざまあみろと思う。シンデレラ・ストーリーのようでいて、かなり捻じれた風刺ドラマだ。そう見ると、『太陽がいっぱい』のような鮮烈な印象を残さないまでも、その半世紀後の新時代における、俳優とドラマの内容をぴたり重ねた意欲作と言えるかもしれない。
 もう少し書くと、このドラマは整形外科で使われるような真っ白な仮面を主役級の4人がそれぞれ手にする集合写真を宣伝用に使う。これはミリの嘘で固めた生き方を表わすとともにイ・ダヘの整形を暗示するように思える。あるいはそのほか3人も整形しているのだろうか。4人とは、イ・ダヘとユチョンのほか、キム・スンウとカン・へジョンで、前者は『アイリス』に出ていた。今回はホテルの支配人役で、妻がピアニストであることが最初の回でわかる。だが、彼女は若い男とセックスをして、夫に対して愛はない。孤独な支配人は老いた母を抱えて仕事に生きるが、博多の大人物が泊まる際に博多弁を話せる従業員がおらず、たまたまそこにミリとの出会いがあって、彼女はホテルに雇われるきっかけを得る。有名ホテルであるから学歴が問題視されるが、ミリは東大卒であると誤解され、そのまま押し通して危ない場面を何度も切り抜ける。この学歴詐称は韓国で実際にあった事件をヒントにしているらしい。日本以上の学歴社会で、学歴のほかに容姿端麗を求められる女性は、ミリのように嘘をつき通してでもどうにか出世街道を歩みたい。そんな韓国社会の惨さを風刺しているかと言えば、そうではないだろう。嘘はやはり駄目で、それがわかった途端に逮捕され、罪を償わねばならない。そのため、現実ではミリのような人物には全く光明が射さない。彼女は母が大企業の社長夫人として収まっているので、いずれは上流階級に招き入れられることが明白だが、ほとんどすべてのこのドラマを見る若い女性は平凡な生活を送っており、有名ホテルに勤務出来る学歴も美貌もない。そのため、このドラマを見ても自分の救いのなさを知らされるだけのことだが、であるからなおさらドラマでは夢を見たいのだろう。そういう欲求を思って書かれた脚本だ。ということは、学歴詐称はよくないが、整形はOKということか。ミリと同じ安宿に宿泊しているのが同じ養護施設で育ったヒジュを演じるカン・ヘジョで、彼女は整形したようには見えない。そのため、どこまでもミリの悪事を許す親友として描かれる。現実にはそんな友人があるとは思えないが、ミリのひどい行為を鮮明に見せるためには、無条件に慈悲溢れる友人が必要だ。だが、ヒジュの活躍はほとんどなく、彼女は出演しなくてもよかった。彼女の起用がかえって駄作ぶりを強調している。キム・スンウは、妻と別れてさびしい頃にミリが現われ、次第にのぼせ上がり、中年男の悲哀をうまく描いている。ましてやミリは博多では店一番の売れっ子で、男を操ることは並み外れている。いかにホテルの支配人といえどもイチコロかもしれない。寡黙な役をうまく演じていて、一番の見どころはミリの正体を平山から明かされ、博多まで調べに出かけて正体を知る場面だ。その後ミリを陥れるのではなく、ホテルのためを思って行動し、またすべては自分のせいだとして身を引く。最終回では医者になって患者を診ている場面が映る。医者の資格がありながらホテル勤務していた理由がわからないが、ともかくミリとは縁が切れ、平穏な生活を得たとの結末だ。また、御曹司とミリとは同じソウルに住むので、いずれまた出会い、結婚するかもしれない。一方のヒジュは御曹司に振り向いてももらえず、素直で素朴、整形を感じさせない女は結局平凡に生きるしかないのだろう。それはとても現実的で、風刺はそこにはない。となると、誰もがうらやむ上流階級は仮面を被った連中が住む世界で、そこに入るには自分の子を捨てる覚悟があったり、また平気で嘘をつき、友人を蹴落とすミリのような人物にこそふさわしいということで、あまりうらやむこともなかろうと、凡人を慰めてくれる。実に親切な韓国ドラマということだ。
by uuuzen | 2012-11-25 23:59 | ●鑑賞した韓国ドラマ、映画
●にぎにぎぞくぞく >> << ●パレードな日々です。

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