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●『黄金の魚』
めいた題名で、結局半年以上、全133回を見ても「金色の魚」はどこにも登場せず、また言及もされなかった。先ほどネットで調べると同じ疑問を抱いた人が多いようで、答えも見つからなかった。



何を象徴しているかは各自勝手に想像すればいいが、韓国のたとえ話にひょっとすれば黄金の魚に関するものがあることも考えられる。だとすれば、一度くらいはその話がドラマの中に出て来るべきだが、それがないところ、やはり謎解きとして、見る人が自由に考えればいいのだろう。昨日取り上げた1974年のドイツ映画の題名『自由の代償』もわかりにくい。今日はまたそのことを考えながら、ヨーロッパでは自由を勝ち取るために拳を挙げて必死に戦って来たことを思った。その最大の成果を得た者が王様で、現代にそれを移すと金持ちの上流階級ということになる。貧乏の上流階級という概念はないのであって、西洋で言う上流や下流は力づくで得たお金の多さで決まる。その場合の力はもちろん拳に代表されるような腕っぷしのよさだけはない。成熟した社会では頭脳が大きく関係する。その賢さは今では有名大学を出たかどうかで決まるから、韓国ではドラマで頻繁に描かれるように、貧しくとも無理して有名大学を卒業し、上流階級を目指す。『自由の代償』では、両親のいないサーカス団員であった若い青年が主人公で、その設定を見ただけでも彼が下流に属することがわかる。そういう人々が大金を儲けるのに宝くじに手を出すのは日本でも同じだが、大金を得てそれを元手にさらに大金をつかむことがあればよいが、まず不可能だ。最初からそんな才覚のある人は宝くじに手を出さない。したがって、『自由の代償』の主人公フランツは、金はあっても拳力がなく、結局大金全部を奪われる。下流の人間は稀に大金を得ることがあっても、それで上流階級に上りつめることは出来ない。その現実をファスビンダー監督はよく知っていて、『自由の代償』を撮った。その題名は、昨日書いたように自由を得てそれを保持するには暴力的な心がまえが欠かせない。フランツは金はほしかったが、オイゲンのように多趣味でもなく、50万マルクのお金を必要としない生活で満足していた。つまり、オイゲンほどには自由を渇望していなかった。自由を渇望し、それにがむしゃらにしがみつくのは上流の人間であって、その究極の存在が王様だ。それが西洋の物の考え方だ。だが日本ではそうでないところがある。王様と無一文の乞食は、自由の点で同等と見る考えだ。もっとも戦後はそんな考えはすっかりなくなり、そして金儲けレースが大いに活発化し、誰もが金に振り回されている。金に恬淡な人は下流に留まる。このように考えると、『自由の代償』という訳語はふさわしくなく、やはり筆者の思うように『自由の暴力』がいいのではないか。暴力的でなければ大金をせしめたままでいることなど出来ない。金持ちが天国に行くのはラクダが針の穴を通るほど難しいとキリスト教で言われる。となればファスビンダーは西洋の根源につながった作品を撮ったことになり、筆者が絶賛するのもそういうことが見えて来るからだ。
 「黄金の魚」に戻ると、この題名は案外『自由の代償』と同じようなことを言っているのかもしれない。黄金の魚を得るにはどうすべきか、またそれを長らく保持するのはどうあるべきかだ。韓国ドラマは必ずと言ってよいほど主役級の若い男と女がふたりずつ登場し、四角あるいは三角関係を作る。それがまず基本で、このドラマも例外ではない。これは戦前のアメリカのメロ・ドラマあたりから学んだものだろう。もうひとつ韓国ドラマで欠かせないのは、上流社会とドン底生活の家庭との絡みだ。現実ではまずそういうことは起こらず、起こったとしても『自由の代償』のフランツのように下流の人間がいずれ元のさやに収まる。それでは長編ドラマにならないし、また連続ドラマを見る大多数の下流の人たちの夢をぶち壊すことになるから、上流の人間が落ちぶれるか、下流の者が這い上がるかという設定が採用される。それはシンデレラ・ストーリー、つまりお伽話であって、筆者は「すごろくドラマ」と個人的に呼んでいる。つまり、非現実的なのだが、そういうものをいつの時代でも女性あるいは貧しい人は歓迎する。それほどに現実がつらいことを自覚しているからだ。そのため、『自由の代償』のような内容の韓国ドラマはあり得ない。貧しい者がのたれ死にする内容など誰も歓迎しない。だが、珍しいことに『黄金の魚』は、主役の若い男が癌に冒され、復讐を果たすことなく死ぬことで終わる。彼をいじめ抜いた人たちはみな上流の人間で、ほとんど無傷のままそうした生活を続けて行くことが暗示される。こういう結末であるから、韓国ドラマ・ファンの間での評価は高くない。だが、筆者は面白く見た。韓国ドラマの大きな要素は復讐だが、このドラマはその無意味さを描いており、その点は画期的だ。主役の男性イ・テヨンは南海の海辺で母パク・ジヘと暮らしていたが、母は大きな病院の院長ハン・ギョンサンの愛人となる。そのことを妻のチョ・ユニは許さず、病から車椅子生活を送るようになったジヘの面倒を診ているある日、不注意からジヘを事故死させてしまう。そしてテヨンは院長夫婦の養子と迎えられて育つが、夫がテヨンをかわいがり、ジヘの面影を忘れていないことの腹いせから、ユニはテヨンを虐待し続ける。肉体的にも精神的にも傷つきながら育ったテヨンは、いつしか院長夫婦の娘ハン・ジミンと恋愛する。ふたりは結婚したいと思っているが、ジヘは断固許さない。夫がいずれテヨンに院長の座を譲ることを考えていることも気に入らない。院長夫婦にも息子がいるが、彼は出来が悪く、とても病院を任せられない。結婚を誓ったテヨンとジミンだが、味方と思っていた院長までもがやがて結婚に反対し、ふたりの仲を裂く。ここがドラマとしてはかなり無理があるが、院長はわが娘かわいさと、妻の怒りを恐れるあまり、テヨンを遠ざけるという考えだ。また、院長とジヘのなれ初めや、ユニとジヘとの関係がもっと描かれるべきだが、かなりぼかされて物語が進行し、一種サスペンス・ドラマの様相を呈する。
 後半ユニとジヘとの本当の関係が明らかにされ、テヨンが復讐の気持ちを捨てるのかと思いきや、そういうことにはならずに、死期が間近いことを悟ったテヨンは院長夫婦を許す。ここも突っ込みが不十分な描き方だが、『自由の代償』のフランツが大金をオイゲンに奪われたにもかかわらず、それを簡単に忘れてしまうことを見ると、納得が行く。つまり、幼ない頃に母を失ったテヨンはフランツと同じで、また金持ち夫婦に育てられたとはいえ、愛には飢えていた。その愛の対象が夫婦の娘であった点がまずかった。フランツとは違って、院長のお気に入りでしかも勉学熱心であったテヨンは立派な外科医になる。つまり上流に這い上がったが、ひょんなことで母がジミンの母によって事故死させられたことを知り、また一方では院長によって無実の罪ながら警察に逮捕されるなど、理不尽な扱いを受け、復讐の鬼と化す。この時点でジミンにすべてを打ち明ければいいものを、ジミンはあまりにお嬢様で、テヨンの苦悩を知ることはない。筆者ならそのことですっかりジミンを忘れるが、テヨンは打算から別の女性ムン・ヒョンジンと結婚しながらもジミンを思い続ける。それをヒョンジンは気づきながらも、最初の夫が事故死し、また小さな娘がひとりいることもあって、優秀なテヨンに接近し、ふたりは結婚する。ヒョンジンは母で女優のイ・セリンと暮らしているが、セリンの夫は財閥の御曹司ムン・ジョンホであった。ふたりは17年前に離婚した。それはジョンホの母ガン女史の策略による。ドラマの後半、ガン女史がほとんど主役になる。彼女は財閥の基礎を作ったが、息子の妻が女優であることが気に入らず、ふたりの子がいるのに妻が浮気をしたとでっち上げて離婚させる。そのため、セリンは女史を憎悪しているが、再婚はしていない。一方ジョンホは若い女が大好きで、母があきれるほどに次から次へと女を変える。ジョンホのその女遊びが止まる日がやって来る。テヨンがヒョンジンと結婚し、その挙句自分の父を脳溢血で病人にさせ、しかも病院までテヨンの持ち物になったことを知ったジミンは、テヨンと同じように金持ちの配偶者を得るためにジョンホと結婚する。ジミンはジョンホにとって娘と同世代であり、いくら何でもということでジミンの両親は反対するが、背に腹は変えられない。貧乏暮らしからまた大きな一軒家に住むことが出来る。形勢が逆転したテヨンは次第に追い詰められて行く。この間、ジョンホはジミンがかつてテヨンと恋仲であったことを知らない。そうこうしている間に院長の病は恢復し、記憶も戻るが、テヨンの味方になって動くかと言えば、もうそれほどの活力は残っていない。ジョンホの屋敷で暮らし始めたジミンは、すぐに義母からテヨンとの間柄を疑いの目で見られ、やがて家を追い出される。このガン女史のいじわるな性格づけはよく出来ている。息子はいつものように若い女と遊んでいると思っていたのが、正式に嫁となったから、17年前と同じように、ふたりの仲を裂き、自分の思いどおりの嫁と結婚させようという魂胆だ。韓国の父母とはそういうものだろう。ドラマを見る限り、ガン女史の行動は全く納得が行く。世間体のよさと、そして子に対して絶対的に君臨する態度だ。そこにもはや日本にはない儒教の精神が見える。また、子もそういう親にしたがうのが当然の親孝行で、結局ジョンホはあえなく母の意見を受け入れてジミンと離婚する。ジョンホはパク・サンウォンという、見慣れた有名な俳優が演じる。彼はいつもいい役をするし、このドラマでも良心的な人柄を見せるが、本当はミス・キャストだ。あるいはもっと別の演技をすべきだ。ジョンホは仕事では優秀だが、母に全く頭が上がらず、また女癖の悪い平凡な男だ。そういう部分をもっと見せないことには役者として失格だ。だが、上品に演じながら、ドラマを見る人がそこに欺瞞や、また愚かさを感じるように仕向けているとも思える。つまり、このドラマは表面的に見えることの裏を読み取るべきで、強烈な悪人は誰ひとり出て来ないが、実際は全員が愚かであることが見えて来る。その意味でお伽話ではなく、シリアスなドラマと言える。
 テヨンとジミンは普通の男女ならそのまま結婚して幸福になったが、養子とはいえ、テヨンはジミンの兄だ。兄妹が結婚することは出来ないから、最初から暗雲が立ち込めていることがわかる。そしてふたりは誤解から憎み合い、復讐合戦を繰り広げる。そのとばっちりを受けたのがガン女史やその息子のジョンホ、そしてその娘のヒョンジンであるから、彼らがテヨンが癌に倒れようが、びくともしない生活を続けるのは当然で、憎たらしい演技をするガン女史は、ごくあたりまえの行動をしているに過ぎないと言える。最も愚かなのはジミンだ。いくらテヨンへの復讐のためとはいえ、父の年齢のジョンホと結婚し、また妊娠もするだろうか。テヨンがぞっこんであったことをすっかり忘れ、テヨンが意外な行動をすることになった原因が自分の両親にあることを少しでも思わないのは、やはり上流の人間は親が絶対的な権力者で、その姿を疑うことすらしないと見られても仕方がない。テヨンも母のことを忘れていないので、それは同じかもしれないが、テヨンはヒョンジンと結婚しながらもジミンを忘れないし、ジミンの両親には復讐心を抱いても、ジミンにはそうではなかった。やがてジミンは母が隠していた過去の行為を知り、テヨンがその復讐のためにヒョンジンと結婚したことを知るが、時すでに遅しで、しかもテヨンが間もなく死ぬことを知る。一番哀れなのは、ヒョンジンだ。彼女は娘がテヨンになつき、また心からテヨンを愛するがゆえに、ジミンを嫉妬し続け、そのために精神が参るほどだ。やがてその猜疑心にテヨンはジミンを懐かしむありさまで、テヨンとヒョンジンの結婚にも無理があった。だが、テヨンが癌に冒されなければ、ふたりはアメリカで暮らしていたはずで、ジミンとの縁も完全に切れていた。人生の残りがごくわずかであることを悟ったテヨンは、ジミンとの間を振り出しの位置に戻し、せめて数日でもふたりで母と育った南海の海辺で過ごしたいと願う。そしてヒョンジンやジミンの両親はその願いを聞き入れる。チョ・ユニにすればどうせもう最期であるから、仕方がないという考えだ。つまり、テヨンが死に瀕してもユニはさほど心を入れ替えない。あるいはそうではなくても、ドラマではユニに罰が下されない。罰はテヨンただひとりが背負って逝く。この不平等をテヨンがユニをつかまえて叫ぶ場面がある。そこは欠かせない。だが、人生に不条理はつきものだ。最も幸福になるべきテヨンが復讐も遂げずに早死にする。ガン女史やジョンホ、ヒョンジン、ジミン、みなそれなりの恵まれた上流階級としての人生を歩むだろう。「黄金の魚」を金色の鯉とすれば、それを飼うのは上流の人間だ。彼らは上流にしがみつくあまり、下流の人間にとっては暴力的な言動を平気で使う。より大きな自由を保つには、それほどの凄まじい覚悟がいる。ガン女史は当然ながら、テヨンにもそれがあったし、またジミンにもあったが、テヨンは田舎育ちで、優しい母に育てられた記憶、そしてジミンの母から虐待を受けた記憶が去ることはなかった。その歪な精神によって大金をつかむ人間は大勢いるが、復讐心に燃えることからはいずれ挫折が訪れる。このドラマのそういう描き方は、儒教ではなくキリスト教的な部分だろう。半年以上、毎日30分見るのは楽しかった。結末をネットで調べずに見たのがよかった。長編ドラマは一息に見ないに限る。その長帳場の雰囲気が楽しい。終わった後に一抹のさびしさが訪れる。だが、テヨンがジミンに抱かれながら死ぬのはせめてものハピー・エンドで、テヨンもジミンもようやく親の呪縛から解き放たれた。
by uuuzen | 2012-07-20 23:59 | ●鑑賞した韓国ドラマ、映画
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