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●『DWEEZIL ZAPPA F.O.H.』 その3
売方法としてCDとダウンロードが同時に行なわれることは、今は珍しくないのかどうか。筆者のパソコンはあまりに旧式で、ダウンロードで音源を買ったことがないのでわからない。



最近ポール・マッカートニーがジャズのスタンダード曲を歌ったアルバムを発売した。それを買えば特別にダウンロード出来る曲がおまけでついていることを知ったが、ポールはCDそのままの音源のダウンロードをディスクと同時発売することはしていないと見える。『F.O.H.』は、ディスクは1000枚限定だが、ダウンロードで買う人はそれより多いかもしれない。安価であるし、またダウンロードではディスク1とディスク2は個別に買える。ダウンロードで買った音をCD-Rに焼けばディスクの形になるので、1000枚限定ヴァージョンを買うのはカル・シェンケルのジャケットを楽しみたい人だろう。筆者はその部類に属する。ドゥイージルが最初に発売したZPZのデビュー・アルバムは、CD3枚セットとDVD2枚が組み合わさったものと、CDとDVDがそれぞれ別になった、合計3つの形が取られた。ジャケット・デザインは背景にフランクのギターを演奏する写真を掲げ、その意図は充分理解出来るが、全体に大味で、力が入った割りには印象にうすかった。その2年後の2010年に2枚組CDの『RETURN OF THE SON OF……』が発売された。これはタイトルに暗示されるようにデビュー・アルバムの続編で、ジャケットも同傾向であった。『F.O.H.』はさらにそれから2年後にの発売だ。内容としては前2作と同様ライヴ録音であるので、全体的な雰囲気は変わらないが、ジャケットが楽しい分、音楽の内容まで違って感じられる。とはいえ、これはダウンロードで聴く世代にはない思いかもしれない。曲目は前2作とだぶりがないように、またドゥイージルに言わせると、「rare」な曲を含む。2007年のツアー音源から選曲されたが、その後も毎年ツアーを重ね、収録もしているから、5年前の古い録音を発売する意図は、あまりにたくさんの録音テープがあるので、古いものから順に発売しようということだろう。これは父がやったのと同じで、現在のライヴと発売される音との間には数年の開きがある。現在までにドゥイージルは父の曲を200近く学んだという。当然これまでに発売されたディスクにして計7枚では全部収録し切れない量であり、今後も定期的にアルバムは発売されるに違いない。その発売に関して、見開きジャケット内部に発売元の考えが書かれている。かいつまんで言えば、まず『F.O.H.』を買ってくれた人へのお礼を述べ、またそういうファンがいなければ今後活動が続けられないとする。それは昨日のネット・コラムにもあったように、CD音源の違法ダウンロードが世界的に多く、音楽関係者が商売にならないという深刻な問題を意味している。100万枚といった爆発的な売り上げをするミュージシャンと違って、ドゥイージル率いるZPZはもっともっとささやかな存在だ。『F.O.H.』がどれほどコピーされるのかわからないが、そういう行動が創作家の活動を停滞させる。『F.O.H.』の価格が高いと感じるのは誰しものはずで、そのことについて、同じ見開きの文章の中に、違法ダウンロードによって被る経済的被害によって、演奏家やレコード会社はもっと高くCDを販売せねばならないことを訴える。
 60年代半ば、LPで音楽を聴いていた頃はテープレコーダーがあって、それでラジオから録音したり、2台使って多重録音の真似事をして遊んだが、LPは大切に扱わねば傷がつくし、またちびった針で聴くとノイズが入るから、本当に舐めるように大切に扱ったものだ。封書の郵便代が10円の頃のことで、LP1枚1800円は金持ちの中学生でないと、何枚も買うことなど出来なかったが、それほど高価であったので、なおさらよく聴いた。また当時のミュージシャンは、録音に対して今より真剣に臨み、最高の技術を披露しようという意気込みがあったのではないだろうか。長年ザッパの音楽を聴き続けて来ている筆者が、この年齢になって何度も繰り返し聴くのは、結局71,2年頃までのアルバムであるのは、その頃からザッパの音楽を聴き始めたこととは別に、その頃までがザッパにとってもより実験的で活力に溢れていたからではないかと思ったりもする。80年半ばのCD時代になると、音楽が手軽になったはいいが、ありがたみがLP時代とは比べるべくもなく、またLP時代よりも名曲が生まれる率が減ったのではないか。支払った価格に応じて感動が深いとは必ずしも言えないが、LPが今の価格に換算すると1万円かそれ以上であったことを思うと、CDは1枚1万円でもいいかもしれず、そうなればもっと深く聴き込もうという気になるかもしれない。安いことに慣れてしまったうえ、簡単にコピーや違法ダウンロードが出来ることなって、音楽がうすっぺらになったと言うか、昔のように宝物のように大切にし、何百回も聴くことが少なくなった。それは音楽に対する愛着や演奏家に対する敬愛も減ったことであり、そのことが『F.O.H.』の見開き内部に書かれる、CD販売に対する危機感につながっている。音楽が複製されることによる売り上げ減の懸念は80年代から一気に唱え始められ、『F.O.H.』に印刷される文章を読むと、ついにここまで来たかという思いをさせられる一方で、その複製の概念を、すなわち父の音楽の完全なコピーを、ZPZそして『F.O.H.』が持つことが面白い。それは正に現在の複製文化を象徴する行為だが、ドゥイージルがもっぱら参考にし、またコピーしているアレンジは、父が最初にレコードに残した録音であることは、父の業績を考えるうえでひとつの視点を提供する。簡単に言えば、80年代後半、つまりCD時代になってからのフランクの録音は、それまでの仕事のアレンジが大半となった。
●『DWEEZIL ZAPPA F.O.H.』 その3_d0053294_22441645.jpg

 それはそれで新しさが楽しいが、オリジナルの演奏があってのことで、オリジナルを超えるとは言い難いところがある。だが、これは誤解を与えかねない。80年代後半以降のザッパは、自作をすべての人に解き放ったと言えばいいか、自分のものと考えるより、古典とみなしている。それは誰が演奏しても自分の作品であり、また演奏した人の作品でもあるという考えだ。クラシック音楽と同じなのだ。また、ザッパの音楽を考えるうえで忘れてはならないことは、オリジナルはひとつの決まった形ではないという態度だ。ザッパは最初からある1曲をどのようにもアレンジして演奏することが出来たし、実際最初期からそのような録音をした。ビートルズの「ヘルプ!」にジョンのヴォーカルが若干違うヴァージョンがあるといった些細な変化とは大違いで、まるで違う演奏であるのに、同じ題名がついていることがとても多い。たとえば『HOT RATS』の「SON OF MR.GREEN GENES」は、それに先立つアルバム『UNCLE MEAT』の「MR.GREEN GENES」を器楽曲のアレンジ・ヴァージョンだが、双方はほとんど別人が録音したように思える。ザッパはその気になれば同曲を大管弦楽団用にアレンジすることも可能であった。実際はそれをしなかったが、そのようなアレンジが充分可能なほどに、他の曲でそうしたことを行なっている。ザッパの曲を聴き楽しむことは、現実にはないそうした別アレンジを想像出来るところにもある。そして、そういう想像の中には、『ジョン・レノンが歌わない「ヘルプ!」はもはやビートルズではなく、つまらない』と思ってしまうようなこととは違う世界が広がっている。であるからこそ、ドゥイージルは父の演奏をコピーしても、そこに自分の独創性が必ず含まれ、父の名誉を汚さないと信じる。
 筆者が大好きな「SON OF MR.GREEN GENES」は、LP時代の音をすっかり変えてCDに収められた。同じ16トラックのマスター・テープを使いながら、音のブレンドを吟味し直し、だいたいにおいてギターを少し引っ込めた代わりにキーボードを前面に押し出した。最初に聴いた時はとても驚いたが、今ではLPヴァージョンよりいいかと思っている。だが、こうしてほしかったと思う箇所がいくつかあり、不満は解消していない。そこで、先に書いたように、自分の頭の中で理想的な音に作り変える。そうした空想の楽しみは、いつか16トラックのマスター・テープの各トラックごとに聴き、自分でミキシング出来る商品が発売される時に完全に満たされるはずだが、筆者が生きている間は無理だろう。それで仕方なしに、「MR.GREEN GENES」と「SON OF MR.GREEN GENES」を聴き比べることで満足していたが、今回『F.O.H.』に「SON OF MR.GREEN GENES」のライヴ演奏が収録されたから、長年の渇望が癒された。さきほど筆者は慣れない作業を3時間ほどして、次の6曲から成るCD-Rを、BGM用に1枚焼いた。
1、「MR.GREEN GENES」(『UNCLE MEAT』)
2、「SON OF MR.GREEN GENES」(LP『HOT RATS』ヴァージョン)
3、「SON OF MR.GREEN GENES」(10枚組LP海賊盤「MYSTERY DISC」に収録される3曲メドレーのうち、冒頭2分44秒のみ)
4、「SON OF MR.GREEN GENES」(CD『HOT RATS』ヴァージョン)
5、「MR.GREEN GENES」(『THE BEST BAND YOU NEVER HEARD IN YOUR LIFE』)
6、「SON OF MR.GREEN GENES」(『F.O.H.』)
 このCD-Rを聴きながらまた書き始めている。CDを取り換える面倒がなくてよい。『F.O.H.』の最後に入っている「SON OF MR.GREEN GENES」は、『HOT RATS』ヴァージョンがスタジオでの多重録音であるのとは違って、メンバーが一斉に演奏した一発録りだ。そのため、父のヴァージョンとは違う生々しさ、荒削りさがある。それはいいのだが、最初と最後の主題に挟まれる即興風の部分は、前半のみとなっている。これが何とも物足りず、拍子抜けする。ドゥイージルは全部コピーする手間を惜しんだのか。あるいはオリジナルが長いので、前半部のみで充分と思ったかだ。またこうも考えられる。『HOT RATS』はLPとCDでは長さが異なる曲がふたつある。「WILLIE THE PIMP」は、ビーフハートのヴォーカルの合間の演奏を録音どおりにしたものがCDで、また「THE GUMBO VARIATIONS」もCDはLPとは違って長い。だが、CDは全曲っを完全な録音を収録したかと言えばそうは限らない。「PEACHES EN REGALIA」は、ヴァイオリン・ソロを含むもっと長いヴァージョンであったことがインタヴューからわかるし、そうなれば逆に「SON OF MR.GREEN GENES」も『F.O.H.』のように中間部の後半を省略したヴァージョンをザッパが作り上げていた可能性がある。そうした蔵入り状態のテープを全部知ったうえでZPZはツアーに出ているはずで、『F.O.H.』の「SON OF MR.GREEN GENES」は確かに『HOT RATS』ヴァージョンの半分程度だが、そういう形もザッパは編集したかもしれない。そう思わせるのは、40年間『HOT RATS』ヴァージョンを聴きながら、後半はスリリングでいいのはいいが、全体として長過ぎかと感じて来たことにもよる。そういうかすかな予感が、『F.O.H.』ヴァージョンを聴くことで確信めいた。それはさておき、ドゥイージルはあえて『F.O.H.』ヴァージョンを、後半のソロに突入しないまま主題が回帰する形にしたはずで、そのことの裏には何か意図が隠されている。それを思うと、「SON OF MR.GREEN GENES」がまた新たな謎を持って迫って来る。ついでに書いておこう。『HOT RATS』ヴァージョンの中間部は、ギターが始終鳴り響く。その演奏が全部即興とは言えないだろう。また全部楽譜どおりに演奏したかと言えばそうでもないように思う。ともかく、ザッパのギターを先に録音し、その全部のメロディを楽譜に書き留め、それにイアン・アンダーウッドがキーボードやサックスを重ねた。そうして出来上がった擬似ライヴの演奏を、逐一ドゥイージルはコピーしてZPZのバンドとともに演奏した。それはそれで『HOT RATS』ヴァージョンより難しい演奏ではなかったか。ドゥイージルは「SON OF MR.GREEN GENES」をほかのステージでも演奏したはずだが、そのどれもが『HOT RATS』ヴァージョンの半分であったかどうかはわからない。ぜひともフル・コピーを聴きたい。ほかの収録曲について書く余地がなくなったが、ザッパが演奏しなかった形としてのギター・ソロを含む「おっぱいとビール」(「CHRISSY PUKED TWICE」と別の題となっている)、71年のフィルモア・イーストでのライヴから3曲をレパートリーにしたこと、「YO‘ MAMA」のギター・ソロの迫力など、聴きどころは多い。ギター・アルバム『I.T.M.』が本当に届くかどうかわからないが、届くとすれば来月中旬。またその時は感想を書く。
●『DWEEZIL ZAPPA F.O.H.』 その3_d0053294_2245496.jpg

by uuuzen | 2012-04-27 22:45 | ●新・嵐山だより(特別編)
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