●『BEEFHEART BAT CHAIN PULLER』その1
判好きと言われても仕方のないザッパの妻ゲイルだが、キャプテン・ビーフハートの今回のCDジャケットにビーフハートの肖像写真や絵画作品を使わず、素っ気ない文字だけのデザインにしたのは、揉め事が生じることを懸念したためではないだろうか。



この文字ジャケットは、ビーフハートが生きていればまず採用されないデザインではないか。それでも不思議なもので、手に取ってしまうと、それが公式のものという思いが芽生え、どんなデザインであっても納得してしまう。また、ジャケットは文字だけだが、ブックレットにはゲイルが撮ったビーフハートの笑顔の写真、それに絵画も2点印刷されていて、それらがジャケットの表側に採用される可能性があったことがわかる。ブックレットの表紙は黒字に一匹のこうもりが描かれている。これはデジパックのトレイ底にも使われていて、ビーフハートの絵ではない。そのため、よけいなものという思いもあるが、なければ殺風景になるとゲイルは判断したと見える。ブックレットは表紙を含めて32ページで、ライナー・ノーツをビーフハートのバンドであった「マジック・バンド」のメンバーふたりが書いている。最初はドラムスのジョン・フレンチ、次にスライド・ギターのデニー・ウォーレイだ。ともにかなりの長文で、文字が細かく、読むのに苦労する。CDは昼過ぎに届き、すぐに1階に置いている波動スピーカーで聴いた。このCDはベース・ギターがなく、代わりにキーボードが低音を奏でているが、低音が少し不足気味に思えるは同スピーカーではちょうどいいかもしれない。全体を通して一度聴いた後は好きな曲を選んでリピートで何度か聴いた。ライナー・ノーツは9割ほど読んだ。ビーフハートのCDにこれほどの文章が載せられることはもちろん初めてのことで、文字ジャケットのつまらなさに比べて、内容は最高度の充実が図られている。当初LPとして発売されるはずであった『BAT CHAIN PULLER』の12曲だけでは物足りないであろうから、ボーナス・トラックが3曲含まれた。これら3曲で17分の長さがあり、CDとして体裁が整っている。
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 ビーフハートについてこのブログも含めて今までまとまった文章を書いたことがない。そのため、それなりにこの機会に思いをまとめておきたいと考えるが、ここは長年蔵入り状態であったアルバムを聴いての感想を書く場であるので、ビーフハート全体論といったことにはならない。『BAT CHAIN PULLER』というアルバム・タイトルは、今回よくぞこのまま出すことが出来た。もちろんビーフハートがそう命名していたはずであるから、何ら驚くことはないが、当時この録音が発売されないことに決まってから、ビーフハートはマジック・バンドのメンバーを入れ替え、再録音したうえで新作LPを発売した。2年後の1978年のことで、ビーフハートのアルバムとしては4年ぶりのことであった。タイトルは、『SHINY BEAST(BAT CHAIN PULLER)』で、アルバムには「SHINY BEAST」という曲は含まれていない。それはアルバム・ジャケットで使われたビーフハートの絵の題名と考えてよく、その絵につけた詩があったのかどうかはわからない。ともかく、「BAT CHAIN PULEER」が副題扱いとなったのは、その分ビーフハートにすれば同曲はいささか古いと思えたか、あるいは録音したのに悶着が生じて発売されなかったことをケチがついたと思ったためかもしれない。だが、「BAT CHAIN PULLER」が副題扱いになったことは、今回のCDが堂々とそれを名乗ることが出来る場を提供したと考えてよい。『SHINY BEAST』が『BAT CHAIN PULLER』という題名で発売されていたならば、今回は『ORIGINALBAT CHAIN PULLER』とでもするしかなかったが、それは無粋だ。ま、どうでもいいことを書いてしまった。今回の音源の権利をザッパが有していることを、筆者は1990年前後に知った。その頃ザッパは録音テープを自分のものとして所有しているので、いずれCD化するつもりがあったであろう。ところが、その実現はビーフハートの死後だ。そこにはゲイルがビーフハートに気を遣っていた事情もあろう。ブックレットの最後のページには、「This slbum is dedicated in Memorium to Don Van Vliet 15 January 1941-17 December 2010」とだけ記されている。Don Van Vlietはもちろんビーフハートの本名だ。ビーフハートはザッパがつけた渾名で、このどこかふざけながらも図太い印象のある言葉はドンには似合っている。
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 さて、さきほどこのCDの写真を撮影し、それが9枚になった。その多さでは「その3」までは続けねばならない。その配分を考慮して書くべき内容を考えよう。先の続きを書くと、最初に録音された今回の音源がなぜ発売されないで終わったか。これはファンならよく知るように、録音費用をザッパのマネージャーのハーブ・コーエンがザッパの資金から勝手に使ったことによる。ザッパはツアーに出ていてそのことを知らなかったが、知った途端に激怒した。ゲイルの思い出によると、ザッパの瞳孔は黄色に変化したそうだ。ま、それは唖然としながら、「メラメラと燃えた」といった様子を思えばいいのだろう。その経費の額はわからないが、録音には3か月要したから、スタジオの使用料だけでもかなりの高額になったはずだ。ビーフハートと違って経済観念が人一倍強いザッパは、コーエンの行為が筋違いであると強く抗議したに違いない。その結果、コーエンと、そして親会社のワーナー・ブラザースはザッパにスタジオを使わせなくなった。コーエンとは10年少々の間柄であったのが、お金のことで仲違いしてしまう。録音が出来なくなったザッパは自宅で細々と録音するしかなく、また一方で訴訟に持ち込み、長年かかってすべての録音テープを自分のものとし、その中にこのビーフハートの録音も混じっていた。自分の金で録音されたものであるから、そのテープが自己の所有物となるのは当然だ。だが、ザッパは発売しなかった。その理由は、全曲がすでに新しく録音されてアルバムとなっていたし、発売するにはビーフハートに一応はうかがいを立てる必要を思ったのだろう。10代からの親友ではあるが、音楽ビジネスの中では割り切らねばならないことが多く、音楽性も人間性も大いに異なるザッパとビーフハートは、べたべたした関係を持つことはなく、お互いの音楽に影響を与え合ったところはないと見てよい。そのことは、ふたりは完全に独立した個性として対等であって、その意味で譲ることは何もなかった。だが、ビーフハートは音楽ビジネスの世界で生きて行くにはあまりにも経済観念がなさ過ぎた。そこがまたザッパとは正反対で、ビーフハートを真の芸術家とするならば、ザッパは商売巧みな職人か芸人と言えばいいかもしれない。それほどにビーフハートは純粋と言えばいいか、あるいは生活能力がなく、ただただ心の赴くまま、とにかく好きなことだけして生きていたいというところがあった。幸い、音楽で食べていけなくなっても、80年代頃からは画家としてヨーロッパでは売れたので、ホームレスになることはなかったが、ほとんどそれに近い時期もあったことはザッパのインタヴューからもわかる。1974年後半には「desperate」、つまり絶望的な状態にあり、ザッパに電話をかけて援助を求めた。ザッパの前に現われたビーフハートは全財産として紙袋ひとつしか持っていなかったというから、これはホームレスと見てよい。ザッパが手助け出来ることは一緒にツアーに出ることで、75年にそれを実行する。そこでザッパはビーフハートに合わせた形でブルースにより傾倒した音楽を演奏することになるが、ツアー中にふたりの関係は悪化し、ビーフハートはザッパを悪魔として描いたりしたという。仕事中毒、ファンへの過剰なサービスをするザッパの姿がビーフハートにそう見えても当然だろう。ザッパはファンの期待をよい意味で裏切るようなステージを常に心がけたが、ザッパから見るビーフハートにはその姿勢もまた才能もなかった。ツアーの後、1975年8月、ジョン・フレンチはビーフハートにアルバム制作のための素材を書き留め、やがて新生マジック・バンドが結成される。その延長上に今回のCDの録音がなされた。その時期はブックレットには76年の3月とある。つまり、今回の発売は36年ぶりとなる。
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by uuuzen | 2012-03-19 00:45 | ●新・嵐山だより(特別編) | Comments(0)


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