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●ランの館、その1
蘭を見せる場所はここ10数年でかなり増えた。立派な胡蝶蘭も今では思ったほど高価ではない。バイオの技術でたくさん育てるのが簡単になったのだろう。



●ランの館、その1_d0053294_2361044.jpg洋蘭について思い出は少なくない。キモノの図案にしようと思って20数年前からあちこちの温室に写生しに出かけた。江戸時代に洋蘭が入っていれば、きっと当時の画家は描いたはずで、またキモノの図案にもなったに違いないということを、それ以前に何かで読んだことが理由として大きい。だが、四半世紀前はまだまとまった量の洋蘭を見せてくれる場所はごく限られた。高槻の山手近くに京大の農場付属の温室があって、そこには数回行ったことがある。研究用の施設であるので、種類が豊富だが、株はどれも小さく、また展示して見せるというより、本棚に本を並べるといった雰囲気で、ずらと大量の鉢が並んでいる。だが、季節を選ばないとうまく咲いておらず、大半は茎と葉だけの状態だ。また、予約する必要があるが、職員はほとんどおらず、入口で係員に挨拶するだけで、2、3棟ある長い温室を行き来しながら、誰にも邪魔されずに数時間、心行くまで描くことが出来た。その温室で目立ったのはパフィオペディルムだ。枯れかたけものは温室内のゴミ缶に数十ほどまとめて捨ててあって、それをどっさり持って帰ったことがある。そして家でも写生するのだが、それが終わった後は息子に学校に持って行かせた。年配の女性担任は、筆者の思いを察して、それをクラスのみんなに示しながら蘭であることを説明したそうだ。子どもたちはそれを覚えないかもしれないが、小学2、3年生ではまだ蘭は見慣れておらず、しかもパフィオペディルムは花屋でも売っていないので、記憶の片隅にでも留めてくれればいいと思った。パフィオペディルムはスリッパや靴の形をした部分があるのでそんな名前があるが、この独特の魅力に取りつかれると、この品種ばかり集めたくなる気がする。ファレノプシスは花屋でたくさん見ることが出来るのであまりありがたみがないが、パフィオペディルムは花がひっそりとひとつずつ独立して、食虫植物のような感じで咲く。そして、その縞模様や斑文など、品種によって差が大きく、見飽きない。だが、この花は量産が出来るようになってもあまり売れないだろう。個展会場で満開になって咲く大型のパフィオペディルムとは違って隠花植物的な趣があるので、愛好者は限られるのではないだろうか。だが、元来愛好者とはそのようにごく限られたもので、どこでも売られるファレノプシスが大好きという人はいるのだろうか。そういう人は蘭をあまり知らないと思える。高槻の温室で写生したパフィオペディルムは、キモノの柄として使ったことがあったろうか。洋蘭のキモノは振袖として3点作っただけで、しかも大半は見栄えのよいファレノプシスを使った。添え物にわずかにパフィオペディルムを用いただで、そのために何度も高槻の温室に出かけたことになるが、人生とはそのようなもので、無駄と思える部分が9割を占める。だが、それを無駄と思えば、人間の存在そのものが無駄なのであって、どんなことでもそれなりに楽しいと思えばよい。それが人生を楽しく生きるこつだ。そう思うといやなことでもそうではなくなる。
●ランの館、その1_d0053294_2363185.jpg そして、こう書きながら、筆者は高槻の温室での温かい、そしてがらんとした空間を思い出しているが、それはとても気分がいい。筆者が大金持ちなら、そのような温室を持ちたい。そう言えばそんな温室が出て来る60年代のアメリカ映画に『夜の大捜査線』があった。そこではアメリカ南部の大金持ちが出て来て、温室で洋蘭を育てている。その大金持ちは南部の白人らしく、黒人を赤ん坊同然に手間がかかるものと思っている。つまり見下げている。そして、黒人の黒い皮膚が小さな破片となって舞うことを嫌うその男の異常な繊細さは、洋蘭を育てる人間としてぴったりで、その映画を深みのあるものに仕立て上げている。その記憶が強いせいか、筆者は洋蘭を好むとことをあまり人に言いたくはない。温室育ちという表現は侮辱であり、筆者は子どもの頃よくそんな言い方をされた。金持ちの息子ならそれもわかるが、筆者のような貧しい家庭の子どものどこが温室育ちなのかと思ったが、母の強い躾のもとで、行儀がよかった、あるいはおとなしかったために、貧乏人には見えなかったのだろう。ともかく、洋蘭にはひ弱さがつきまとい、しかも室内で咲くという印象から、何か特別の大事な花という思いがある。そのために、この20年ほど、各地で洋蘭を見せる施設が増えたのだ。もちろん、それには入場料を徴って経営するという商売からだが、それとは別に植物園として珍しい品種を育てる、増やすという目的もあるだろう。また、毎年大規模な蘭展がドーム球場を借りて行なわれたりするようにもなったが、東京が中心で、筆者はそういうチラシを見るたびに見たいと思いながらも、まだ行ったためしがない。今では日本全国に愛好家がいて、珍しい品種を大切に育て、それをそうした展示会に出品するのだ。『夜の大捜査線』に登場した蘭愛好者とは規模が違うが、同じ趣味を持つ物が増えたことは、日本の経済成長をよく物語る。筆者の蘭に心が惹かれる思いも、それに沿ったもので、珍しくも何ともなく、花に関心を抱く必要のある仕事からしてごくあたりまえのことだ。また、蘭ブームはグルメ・ブームと似て、文化の爛熟を示し、その後国に衰退に向かうように思うが、温室育ちは退廃的と意味合いがどこかで通じていて、おとなしい筆者を昔の大人は不健康と思ったのだろう。実際そうかもしれない。健康な子どもは、暴れん坊で、よく喧嘩もするというのが大人の決まった見方だ。
●ランの館、その1_d0053294_2364961.jpg
 名古屋に先日行った際、百貨店からさほど遠くないところに蘭を見せる施設があることを知って足を延ばした。写真をたくさん撮って来て、それを再度加工した。どれか没にしようと思いながら、それがなかった。そのため、1回の投稿では全部掲載出来ない。3回に分けようか、2回にしようか、まだ決めかねているが、1回に投稿する写真はせいぜい5枚まで、そうなると3回は必要だ。全くたいした写真ではないし、この施設の温室は期待したほどでは全くなく、また見るべき蘭はとても乏しかったので、書くほどのことはさっぱりなく、蘭の写真も少ない。パフィオペディルムは皆無であったが、こうした入場料で経営する施設では見栄え優先は当然だろう。さきほど書いたように、無料で入ることの出来る大学付属の施設が、地味な蘭をごっそりと並べる。また、このランの館ではレストランがあったり、ファレノプシスの大きな鉢を大量に並べて販売していて、植物園としての機能よりも、大型の花屋といった方が当たっている。貸し会場としても機能していて、花道家が作品を展示していた。別の部屋では、フラワーアレンジメントと言えばいいのだろうが、洋花の盛りつけを見せる人が個展を開いていた。写生したくなるような花はないかったが、温室に入ってすぐ、バンダの株が2、3あったのはよかった。この青い蘭は珍しい。この花を最初に写生したのは20年ほど前だ。奈良に近い精華町に洋蘭を見せる施設が出来て、そこのメインにこれがたくさん咲いていることをTVで知って、それですぐに出かけた。駅から数キロの道のりで遠かった。バスもないので、一度歩いて往復したきりだ。その長い一本道はよく覚えている。まだその施設があるかどうかは知らない。それ以来ではないが、バンダを見る機会はほとんどない。今はさほどでもなくなっているのだろうが、この青紫の網目模様には魅せられる。また花が大きいのがよい。小さな花がたくさん群がる品種もいいが、見慣れたシンピジウムはまるで造花のようで、ファレノプシス以上につまらない。そう言えば7、8年前、倉敷の民芸館に入った時、そのチケット売り場の前の民芸調の大きな机の上に、大きな楕円形の鉢に植えられた、四方に見事に垂れ下がって咲く小型の白い花をつける蘭を見た。それがあまりに見事で、その時の旅行の一番の思い出になっているほどだ。確か写真をまともに撮ることが許可させず、別のものを写すときに、どうにか写真の端にその花の一部が写るように撮った。その写真を探すのが面倒だが、今のネット社会なら、案外簡単に品種がわかるだろう。その蘭を同じように咲かせて描いてみたい、あるいは咲いているのを見たいと思う。蘭はそのように、記憶に長く残る花で、それは筆者が好きであるからかもしれない。
●ランの館、その1_d0053294_11463570.jpg

by uuuzen | 2010-11-13 23:59 | ●新・嵐山だより
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