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●松尾駅の駐輪場、その7
莫山が昨日亡くなったというニュースがあって驚いた。この2、3週間、莫山のことを漠然と思っていたからだ。



近頃はあまり莫山がTVに出ないなと気づいたからで、そう思っていたところ、高島屋で開催された東大寺の近現代の名品展を先日見た時、ほとんど最後のコーナーに莫山の独特の書と画が一体になった掛軸と、もう1点、般若心経をまともな字体で書いたものがその横に掛けられていたのに接して、最近思っていたのはこれとの出会いのためだったかと感じた。同展は今度東大寺境内に老朽化した収蔵庫を立て直すための浄財を集めるために全国を回るもので、東大寺所蔵の宝物を展示する。その中心は昭和大修理の時に作られた華厳経の巻物で、そこには当時を代表する画家と書家が総動員されている。当然日展などの権威団体所属の作家ばかりで、そうした団体を嫌った莫山は含まれていない。それを補う形で、展示の最後に2点飾られたが、在野の人はそれなりに評価され、作品が収蔵されることを示して面白い。まともなと言えば語弊があるが、莫山は最初まともな字を書いて上りつめるところまで行った。それから前衛書に転向するのだが、まともな字を書くことが出来ないわけではなかった。その様子は、今から20年ほど前だろうか、NHKの教育TVで莫山が講師となって書の歴史を説明する番組で実演していたことからよくわかった。その頃莫山はすでにかなり有名であったが、それは近畿を中心とした会社からの依頼で題字をよく書いて来たことによる。在野で活動するにはそういう仕事で収入を得るしかないし、またそういう商業的な仕事をこなすことによって人気がさらに大きくなる。そしてそこを日展系の書家は批判もするだろう。莫山の書は、ほとんど手本とどこが違うのか素人にはわからない伝統的な書とは違って、会社としては宣伝に利用しやすい。それは視覚性が強いからだが、そこには絵と同じ造形感覚がある。漢字の象形文字は元来物を極限まで簡単にした絵であるから、字を絵と同じ地平で眺めるのは正しい。その象形文字の原点に帰って書を捉え直したのが莫山だが、一見下手に見えるので、素人がよく真似しようとする。そしてどうしようもない醜態を世間に晒すが、本人は気づいていない。気づいていないから晒すのが平気なのだが、気づいていないから罪もない。近年はそういう若手の書家が何人もTVをにぎわしている。もちろん莫山のように古典の臨書の基礎がしっかり出来ている者も中にはいるようだが、それだけで味のある書が出来るとは限らない。まだ人生をあまり知らないからだ。いや、正確に言えばそれなりに味のある書は、書をたしなまない人にも出来るので、それで世間ではより話題になりやすく、またそれなりの個性のある者をもてはやす。そういう風潮を莫山は決して否定しないどころか喜んだであろう。それは莫山が作った道であり、そこを若手が歩いて行く。その中から一番強く生き残る者がきっといるはずで、それを莫山は期待したのではないか。そうした若手の登場が目立って来た近年、逆に莫山はTVに出なくなった。今から10年ほど前か、心臓が悪かったか、入院したというニュースがあった。それ以前には、甘いものが好きで、それで体を悪くしたことがあったとも聞いた。昨日のニュースで知ったが、84歳であった。これは長生きの部類で、充分仕事をしたというべきだ。話を戻すと、高島屋で作品に接して、内心この出会いが最近莫山を思い出す理由だったかと思ったのが、実際はそうではなく、訃報に接することだった。テレパシーとは言わないが、筆者には割合そういうことが多い。
●松尾駅の駐輪場、その7_d0053294_8585817.jpg

 莫山は八尾に住んでいたことがある。筆者が莫山を知ったのは30年ほどになるだろうか。著書が多いので、それらを図書館で借りてよく読んだ。『路傍の書』だったと思うが、その中に莫山が書いた文字が和菓子の最中に使われていることを知った。その店は桃林堂と言って、八尾にある。筆者も一時八尾に住んでいたから、早速その店に行ってそれを買った。買ったものは食べずにある人に贈ったが、その後八尾に住む親類から送ってもらったことがある。細長い長方形の最中で、その表面に莫山らしい大きな文字が縦に並んでいる。近所に住んでいたよしみで莫山は依頼されたのだろう。そういう企業の依頼がその後増加し、TVに出るようにもなった。莫山は著書の多さからもわかるように、体系的に書を捉えることが出来た。その点が素人の物まねとは違う。そういう知識は後でついて来るものとも言えるし、また書そのものとは関係がないと言う人もあるかもしれない。ここは難しい問題だが、簡単に言えば人は似た人と交際しやすいから、莫山のような知識人は知識人の中で評価されて有名になり、そうでない平凡な頭の人は凡人に持てはやされる。だが、凡人は物事を忘れやすい。一時TVで顔が出て知られても10年も経てばほぼ誰も覚えていない。その意味で知識人つまり思いを書いて、時には人前で意見出来る人に出会うか、そうした人の目にかなう必要がある。これには知識は不要だが、ただし、愛される人物でなければならない。この人から愛されるというのは一番強い武器だ。これがなければ有名にはなれない。そしてこれはつくろって出来ることではなく、その人の核として存在するもので、常に裸になった状態で人前に晒されている。莫山が人気を得たのは、独特に書もそうだが、それにそのまま見合う人柄が多くの人から愛されたからだ。莫山は伊賀上野の出身で、芭蕉を思い出させるが、莫山は後年書画一体の俳画を盛んに描いた。書家が急に絵を始めたので、世間ではいろいろ言う人もあったと思うが、奈良の百済観音を描いた作品は、書家が描いたとは思えない迫真性があった。絵は字より理解されやすいので、どうしても絵と字が同居すると絵に先に目が行くが、そうした莫山の絵は字で感じる何かとは少々違う。だが、絵を見た後で字を改めて見ると、そこで初めて字への理解も出来る気がする。莫山は字を絵と思いながら、きわめて造形性の高い書を書き、そうしているうちに絵に関心を抱いたのであろう。それはまたたとえば蕪村の南画を見るなど、書と絵を同時にこなし、ひとつの画面に一体化させるという伝統を復活させたい思いもあったのかもしれない。元来絵と書はそのようなものであった。さて、今日は松尾駅の駐輪場の現場写真で、4月23日のものだ。昨日から一気に日が飛んだが、桜も散って、嵐山駅前の工事は一段落した。それで工事による変化がない。それで目が工事中の松尾駅前ということになっていた。
●松尾駅の駐輪場、その7_d0053294_8593277.jpg

by uuuzen | 2010-10-07 09:00 | ●駅前の変化
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