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2009年07月06日●第 61 話
マニマンの小中学校にはプールがありませんでした。それで、夏休みには友だちに誘われて遠くの市営プールまで泳ぎに行きました。マニマンはいつも溺れてプールの水を飲みましたが、水に浸かっているだけで冷たくて気持ちがいいのでした。また、浮き輪を使うのは格好悪いので、マニマンは潜っているか、プール際にしがみついて浮いていました。そんな遠い昔のことを思い出しながら、マニマンは裏庭の金魚がいなくなったオニビシ鉢を覗き込みました。葉は鉢の縁を越えて伸びようとしています。そして葉を水面に浮かせるため、空気が入っている赤い葉柄を膨らませました。オニビシも泳ぎが苦手で、浮き袋を持っているのです。マニマンは自分がオニビシと親類のような気がします。水の中を猛烈に駆け回る犬のようでなければならないのに、町の市井のマニマンは待ちの姿勢で、水中にじっと浸かって夏の雲を見上げる想像をします。『井の中のオンリー・ロンリー・オニビシさん、わたしに浮き袋をひとつわたしてくだされオニ。一緒に夏のお天道さんの眩しい光を浴びましょうオニ。』
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